相続の準備をしていたからこそ防げたケース

~ 兄妹どちらも家を引き継ぎたくなかったら? ~

前回の事例では、「遺言書がなかったことでトラブルになったケース」をお話ししました。

今回も、実際によくあるケースをもとに、相続の準備をしていたら防げたはずの話を紹介します。


「お兄ちゃん、この家どうするの?」

母が亡くなり、兄妹二人で実家を訪れた。
祭壇に飾られた遺影の前で、妹が遠慮がちに口を開く。

「お兄ちゃん、この家どうするの? 長男だから、お父さんが言ってたみたいに継ぐんでしょ?」

「え? いや、俺も家はいらないんだよな…。」

兄はため息をつきながら答えた。
兄はすでに別の場所に家を建てているし、妹も遠方で暮らしている。
どちらも住む予定はないのに、相続財産の大半はこの家

「じゃあ、家を売るしかないってこと?」

「でも、父さんはこの家を残したかったんじゃないのか?」

「でも、お兄ちゃん住まないんでしょ?」

「まぁ、そうだけど… なんか、売るのは気が引けるっていうか…。」

どちらも家はいらないのに、気持ちの整理がつかず、話は堂々巡り。
結局、妹は「相続分を現金で受け取りたい」と主張し、
兄は「すぐに売る決心がつかない」と譲らず、
平行線のままになってしまった。

家族で話し合いしていれば、こんな対立は防げたかもしれない

もし、父が生前に相続の家族会議をしていたら?

「家を売却し、その売却益を兄妹で分ける」
「家は兄が相続し、妹には生命保険や現金で相続分を確保する」

こんなふうに、事前に方向性を決めておけば、兄妹が困ることはなかった。
不動産の売却「すぐに売れるとは限らない」もの。
土地柄や市場の状況、家の状態によって、時間がかかる可能性もある。
だからこそ、事前に方針を決めておくことが大切なのだ。
しかし、父は「長男が家を継ぐのが当然」と思っていたため、何も決めないまま亡くなってしまった。
母が亡くなって、兄妹はこれからの事の「話し合いを続けるうちに、だんだんと心の距離までできてしまった。

「なんでこんなことになっちゃったんだろう…。」

妹は、小さく息を吐いた。

「財産を分けるため」だけではなく「家族の想いを残すもの」

相続の準備として、よく話題に上がるのが「遺言書」。
でも、遺言書はただ財産の分け方を決めるだけのものではない。

家族がこれからも仲良くいられるための「想いを伝える手紙」でもあるのです。
もし、お父さんが生前に万が一「兄妹が揉めないために」と考え、遺言書を準備していたら?

兄妹が、無駄な争いをせずに済んだかもしれない。
家をどうするか、もっと早い段階で決められたかもしれない。
お互いに不満を抱えることなく、気持ちよく相続を終えられたかもしれない。

「お父さんが残した手紙」
それを兄妹で一緒に読んだら、どんな気持ちになっただろうか。
普段は口下手で、感情を表に出すことが苦手だった父。
それでも、最後に残してくれた**「家族の未来を考えた言葉」があったなら…。

きっと、兄妹はもっと素直に、お互いの意見を伝えられたはずだ。

元気なうちに決めておくことが、家族への思いやり

「まだ元気だから」と、準備を後回しにするのではなく、
家族が困らないように 「元気なうちに決めておく」 ことが大切。

遺言書があるだけで、家族が揉めるリスクはグッと減る。
遺言書がなくても、家族で事前に話し合いをしておくだけでも違う。
遺言書を準備することは、大切な家族の未来を守るための、ひとつの方法です。

これがすべてではないけれど、その家庭に合った準備は必ずある。
「うちの親も、まだ何も準備していない…」
もしそう思ったら、ぜひ一度、家族で話し合ってみませんか?

この記事を書いた人

コラン相続コンサルタント事務所 坂本俊一