「お父さん、本当にそれでいいの?」— 家族の相続のゆくえ

お父さんの家は、兄が継ぐのが当然でしょ?」

そう考えている人いませんか?

もしこんなシチュエーションがあったら・・・

「お父さんの家は、兄が継ぐのが当然でしょ?」 リビングのテーブルを囲んで、長女が静かに言葉を継いだ。 隣に座る妹は少し戸惑った表情を浮かべる。

「当然って…どういう意味?」

父は黙って湯呑みに手を伸ばした。 母も、何か言いたげだったが、そのまま言葉を飲み込んでいる。

「私たちにも、それなりの取り分があるはずよね?」

長女の問いかけに、父はそっと息をついた。

「家は長男に継がせたいと思ってる。お前たちもそれはわかるだろう?」

「わかるけど…」

次女が視線を落とす。

「じゃあ、私たちはどうなるの?」

「もちろん、お前たちにもちゃんと考えている」 父はそう言いながら、手元のメモを見た。

不動産は長男、預貯金を娘たちに分ける。

父なりに考えた分配案だった。

「家の価値は3000万円ぐらいだろ?預金は2000万円ある。その半分ずつ、お前たちに渡せば…」

「お父さん、ちょっと待って」

長女が首を横に振った。

長女「家をもらうのと、現金をもらうのって、同じ価値じゃないわよね?」

父「家は分けれないから、お前たちには現金を準備している」

長女「それはお兄ちゃんが売ったら?売るかどうかもわからないのに、私たちだけ現金で済まされるの?」

次女も静かに口を開いた。

「私は今すぐお金が欲しいわけじゃない。でも…なんだか納得いかないな」

「そんなこと言ってもなぁ…」

長女と次女は3000万円と1000万円では不公平だというのだ。

すると、ここまで黙っていた母が、ぽつりと口を開いた。

「私は…この家を残したいとは思っていないわ」

家族の視線が母に集中する。

「お父さんは『〇〇(長男)に』って言うけど、〇〇はこの家に住むの?」

父は答えに詰まる。

長男はすでに家を建てて暮らしている。

「住まない家を継いでも、固定資産税や管理の負担がかかるだけじゃない?」

「でも、家を売るなんて…」

父の声が震える。

「お父さん、家は思い出の場所かもしれない。でも、〇〇(長男)にとっては『住まない不動産』になるかもしれないのよ?」

父はメモを握りしめた。

「じゃあ…どうすればいい?」

長女がゆっくりと父を見た。

「家を売って、みんなで分ける。そうすれば、お兄ちゃんも負担にならないし、私たちも納得できる」

父は、手元の湯呑みを見つめる。

家を残すことが、〇〇(長男)の負担になるなら・・・ 父の考えが、少しずつ揺らいでいくのを感じていた。

相続は、「財産を継ぐ」ことだけが目的ではありません。 それは、親の想いを受け継ぎ、家族の未来を考える時間でもあります。 誰がどれだけ相続するか、 どう分けるのが公平なのか

それも大切なことですが、 もっと大事なのは、家族が納得できる形を見つけること。 「家族が幸せになるために、何を残し、どう分けるのが一番いいのか」

それを考えるのが、相続の本当の意味かと思います

相続の話し合いは、 「争いを避けるため」にするものではなく、 「家族の絆を守るため」にするもの。

お互いの気持ちを知り、親の想いを理解し、 どうすればみんなが安心できるのかを考える その対話こそが、 家族の未来を守るための大切な一歩になります。

「まだ先のこと」と思わずに、 今だからこそ、できる準備を始めてみませんか?

この記事を書いた人

コラン相続コンサルタント事務所 坂本俊一